…それほどに美しい少女が、そこにスヤスヤと睡っているのであった。
その少女は艶々したおびただしい髪毛を、黒い、大きな花弁のような、奇妙な恰好に結んだのを白いタオルで包んだ枕の上に蓬々と乱していた。肌にはツイ私が今さっきまできていたのとおんなじ白木綿の患者服を着て、胸にかけた白毛布の上に、新しい繃帯で包んだ左右の手を、行儀よく重ね合わせているところを見ると、今朝早くから壁をたたいたり呼びかけたりして、私を悩まし苦しめたのは、たしかにこの少女であったろう。むろん、そこいらの壁には、私が今朝ほど想像したような凄惨な、血のにじんだ痕跡を一つも発見することができなかったが、それにしても、あれほど物凄い、息苦しい声を立てて泣き狂った人間とは、どうしても思えないその眠りようの平和さ、無邪気さ……その細長い三日月眉、長い濃い睫毛、品のいい高い鼻、ほんのりと紅をさした頬、クローバー型に小さく締まった唇、可愛い恰好に透きとおった二重顎まで、さながらに、こうした作り付けの人形ではあるまいかと思われるくらい清らかな寝姿であった。……否。この時の私はホントウにそう疑いつつ、何もかも忘れて、その人形の寝顔に見入っていたのだった。

引用-ドグラ・マグラ(夢野久作)